SUMMIT 2023
エイカレ10年の変化を振り返る
新世代エイジョカレッジ(エイカレ)は、2023年度、10年という節目を迎えました。
この10年でエイジョを取り巻く環境はどう変わったのか。エイカレが残せたものは何なのか。
「エイカレ10周年記念パネルディスカッション」には、特別審査員で東京大学名誉教授、中央大学ビジネススクール・フェローの佐藤博樹氏、エイカレ参加企業で6度ファイナリストに選出されている日本イーライリリー株式会社営業本部の水田圭一氏、エイカレ2016で大賞を受賞したチームのリーダーであり、現在はキリンホールディングス株式会社人財戦略部に所属する長崎亜弥香氏が登壇。
事務局を務める株式会社チェンジウェーブグループ代表佐々木裕子が司会進行を務めました。
会社の「当たり前」を壊し 新たな価値を生み出してきたエイジョの10年
佐々木裕子:新世代エイジョカレッジは 2014年に始まりました。ダイバーシティ先進企業7社が集まり、調査したところ 「営業女性(エイジョ)の9割が、10年以内に現場から離れてしまう」という課題が見えてきたんです。それを解決すべく、エイジョたちを集め、エイジョたちに見えている課題を解決する実証実験を行い、検証することで、営業の現場から離れずに続けていける仕組みを作りたいということで始まりました。
これまでの累計参加企業は 157社、累計の参加者は 1000人弱。そして、 180を超える実験が生まれました。皆さまがエイカレをどのようにご覧になっているのか、エイカレによって起きた変化など、まずは一言ずつお伺いできればと思います。
佐藤博樹氏:ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンを推進する中で、やはり肝なのが女性の活躍の場の拡大で、特に女性が少ない営業での取り組みです。ダイバーシティ推進を考えるとき、エイジョの課題に取り組まれてきたのはすごく良かったと思います。もちろん女性を外部の研修に参加させたり、ビジネススクールに派遣したりすることも有効ですが、 日頃抱えている課題を解決する方法をエイジョ自身が考え、実験を実際にやってみる。これが非常に大事なことだと思います。
佐藤博樹氏
東京大学名誉教授、中央大学ビジネススクール・フェロー
水田圭一氏:日本イーライリリーは 2017年から参加し、おかげさまで毎回ファイナリストチームとして選出されました。参加してきた 7年の中での変化としては、 当初は 管理職の推薦でメンバーを構成していましたが 、2022年からは公募制にしました。この時は事務局の方が「本当に手を挙げてくれるのか」「実証実験を一緒に乗り越えられるのか」と不安になったのですが、 結果的にはやる気のあるメンバーが集まることになり、自分ごととして取り組む姿勢が強くなりました。そして、見事審査員特別賞をいただいたことは、企業としても大きな経験でした。
水田圭一氏
日本イーライリリー株式会社 営業本部 営業企画
長崎亜弥香氏: 2016年、チーム「なりキリンママ」の一員として、子どものいない5人のメンバーが営業ママになりきった想定で時間制約がある働き方を実践しました。労働生産性を上げていくという実証実験です。その後、実証実験によって見えてきた働き方の課題などを解決するために、全社で取り組むことを人事部に提案しました。
この取り組みは、エイカレ終了後も 2017年から2018年にかけて、全社的にトライアルを実施し2019年度からは「なりキリンママ・パパ研修」として全社展開されています。
長崎亜弥香氏
キリンホールディングス株式会社 人財戦略部
※なりキリンチームメンバーインタビュー
https://eijyo.com/report/eijyo_afterreport002.html
https://eijyo.com/report/after_report_narikirin.html
エイジョの成長と職場の変化
佐々木:「なりキリンママ」の実証実験で行ったことを、全社研修として展開されているとのことですが、具体的にはどのような研修になっているのでしょうか。
長崎:通称「なりキリン研修」と呼んでいるのですが、研修を受ける社員はまず「育児」「親の介護」「パートナーの病気」のいずれかのシチュエーションを選択します。そこから1カ月間、時間の制約や突発的な呼び出しで帰らなければならないということを模擬体験しながら業務との両立を図る体験型の研修になっています。
単純に育児や介護をする立場になることを目的としているのではなく、多様な立場や働き方を理解して、誰もが働きやすい環境を作ることを目的としています。個々の働き方の改革や上司のマネジメント力の向上に寄与し、さらに、育児や介護、看護など、時間制約のある働き方の予行練習にもなるということで実施しています。
佐々木:研修によってどのような効果、変化が起きていますか。
長崎:まずは、若手女性の心の変化がありました。「子どもができたら営業はできないんだろうな」と、漠然と不安に思いつづけているのではなく、実際に制約のある働き方をしてみることで、「できる」ということがわかってきて、前向きにキャリアを考えようと思えるようになったという声が聞かれました。
個人の体感では、私が営業だった頃は全国に女性の営業担当が手で数えられるくらいしかいませんでしたが、今は周りにも増えてきています。営業女性も働きやすい、時間の管理ができるという声もあがるようになりました。随分と変わったと感じています。
また、実際に制約のある働き方を体験したことで、男性の育児参画が増え、男性が共働きの妻のためにご飯を作ったり、今までよりも家事に参画したりするようになったという声もありました。
佐々木:グループ全体に影響を及ぼしたという点で、まさにダイバーシティの成果ではないかと思います。水田さんは参加したエイジョの成長についてはどのように感じておられますか。
水田:
私はエイジョの成長や良い影響について、3つあると考えています。
1つ目は、 開発育成に対する考え方です。周りからコーチングされるもの/与えられるものという考え方から、自律し、個人のオーナーシップ、自ら動き勝ち取るスタイルに変わってきたと思います。
2つ目は、他部署との連携の増加/サイロの低下です。属人的なものを見える化(プロセス化、数値化、デジタル化)することで、根本原因が見つかりやすく、個人の思いや意見をスピークアップできるようになり、社内の風通しが良くなってきたと思います。
3つ目は、 顧客に対するアプローチです。セグメンテーションのとらえ方が変化し、人間関係 、人としての温かみを残しつつ、さまざまな顧客のインサイツ分析を踏まえ、MR による対面の面談とデジタルを含めたオムニチャンネル活動が主流になってきました。
また、これまでに50人がエイカレに参加していますが、現在そのうち36人が営業で働き続けています。また6人が本社勤務、6人が管理職になりました。エイカレに参加した50人がいきいきと活躍していることが、私たち周囲の人間のやりがいにもつながりますし、社内の非常に良いスパイラルにつながっていると思います。
エイカレを変革エンジンとして活用するには
佐々木:エイカレは変革のプラットフォームであることも目指してきました。
これまでの実証実験、エイジョの変化を佐藤先生はどのように捉えていらっしゃいますか。
佐藤:「実証実験」を実施するためには、営業部門だけではなく、会社の中の他の部門や取引先など、様々な関係者を巻き込む必要があります。そのためには理論武装が必要で、事前の学びが重要になります。「実証実験」を通じて、データを集めて、分析し、それに基づいて上司をどう説得するか。これが参加者の大きな成長につながることは間違いありません。ただ、実証実験の成果が、その後、全社的な取り組みに繋がるかどうか、その点に課題がありますね。
水田:全てに共感いたします。先のことを考えてサポートできるかという課題が、企画側にはあると思います。実証実験はやはりタフですし、特に営業という仕事をやりながら企画をしていくとなると不安もあると思います。そこに、例えば相談できるOGが入ると、良いスパイラルになるのではないかと思います。
佐藤:企業が、エイジョの取り組みを営業の改革に活用する意図があるのであれば、会社として「これに取り組んでほしい」というテーマをエイジョたちに提示して、参加者を公募することも一案です。こうすることで、エイジョの取り組みを社内の改革、つまり「実証実験」の取り組みを社内で展開できることにつなげることができるのではと思います。
佐々木:エイカレから始まった変化の波がさらに広がっていくことを願っていますし、我々事務局も今後に向けて自らを変革していきたいと思います。本日はありがとうございました。
※エイカレサミット2023レポートはこちら