SUMMIT2021 REPORT
働く日は自分で選ぶ
エイジョが労使協定に踏み込んだ理由
コロナ禍の出社制限・リモートワークの普及は、多くの人の働き方を変えました。
皆が同じ日に出社し、同じ時間に同じ場所で働く…そんな当たり前が崩れ、労働者の価値観・ライフスタイルはよりいっそう多様化してきています。
「土・日休み」という当たり前を崩し、自らが「働き方」を選ぶべく、組織のトップや労働組合、人事部まで巻き込んで実証実験を行った、日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社・SBGs(Sustainable Boehringer Girls)の事例をご紹介します。
SBGs 実証実験「セレクトワーキング」
目指すゴール
顧客と労働者の多様化する価値観やライフスタイルに寄り添える働き方の実現
壊したい当たり前
土曜・日曜の固定休日
創りたい仕組み
働く日を営業職個人が多様かつフレキシブルに選択できる「セレクトワーキング」
実証実験
週ごと、月曜~土曜の中で働く日を5日間選ぶ
休日は日曜と自分で決めた日とし、週休2日を担保する
土曜日勤務による顧客満足度、ニーズの変化と営業職の労働生産性、心理的影響を調査
日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社 SBGs・チームメンバー
漆原 李理さん(プライマリーケア事業本部 営業本部)
森本 香居さん(プライマリーケア事業本部 営業本部)
堀内 美里さん(プライマリーケア事業本部 営業本部)
村田 佳子さん(プライマリーケア事業本部 営業本部)
宮首 舞さん (プライマリーケア事業本部 営業本部)
顧客の潜在ニーズを掘り起こし、手繰り寄せたテーマ
エイカレ2021の実証実験テーマは「サステナビリティ時代の営業モデル創出」でした。
SBGsのメンバーの議論は「MRのサステナビリティ」から始まり、「自分たちのサステナビリティは顧客価値抜きには考えられない」という方向へ。まずは現状、やりたいのにやれていないことはないか、顧客を思い浮かべながら、ひたすら洗い出していったそうです。
そして「(顧客である)医師から土曜日の面談希望を受けても、社の就業規則により対応できない」に到達。医師のニーズに応えながらMRの働き方を変える、というアイデアが浮かびました。
ライフスタイルが多様化している現在、MR自身にも「平日、家族のケアのために時間を使いたい」「平日、勉強の時間が作りたい」「パートナーが休んでいる土曜日の方が思いきり働ける」という様々な要望があるはずです。休日がフレキシブルに取得できることは社員のエンゲージメント向上にも繋がるのではないか。こうして顧客と労働者双方のニーズに応える「セレクトワーキング」が誕生しました。
社内外400名の協力を得るまで
~労組との議論・勤怠システムの変更・説明会実施~
とは言え、実証実験までの道のりは決して平たんなものではなかったそうです。
働き方、特に休日の取得は労働者の権利に深く関わります。
周囲からは「今のままでも、土曜日に働いて、代休を取ることは可能ではないか」という意見があったため、メンバーは組織のトップとも、労働組合の幹部とも、熱く議論を交わしました。「代休ではない」ことにこだわりたい、というメンバーの想いがあったからです。
週末に働いて代休を取るのではなく、事前に自分で「働く日」「休む日」を選択することで、セルフマネジメントできるようになる。「主体的に選択する働き方」に転換できるという考えでした。
メンバーの熱意が伝わったのか、議論の結果、期間を定めて労使協定を締結することに成功。週休2日が担保できるように実証実験を設計し、勤怠システムの変更も実現しました
面談満足度91% 精神的余裕から生まれた新規提案
実験後のアンケートでは、土曜日に実施した面談の顧客満足度は91%を達成。平日はアポイントが取れなかった医師や薬局へのアプローチが可能になっただけでなく、通常より長い時間をかけ、深い商談や詳しい情報提供ができたという声が聞かれたそうです。
逆に、資料の準備など、内勤業務を緊急対応が発生しにくい土曜日に集中して行い、業務効率が上がったというメンバーもいました。
プライベートに関しても「事前に計画を立てたため、むしろ有意義な時間を作れた」「自分の生活に心の余裕を持てた」「平日、家族とゆっくり話せる時間ができた」といった好意的な回答が並んだそうです。
本実験に伴走した泰道明夫さん(人事本部 HP人事ビジネスパートナー部)、小松千香子さん(プライマリーケア事業本部 営業本部 神奈川支店長・女性活躍推進プロジェクトリーダー)は、SBGsの取り組みについて「熱意を持って自走しており、本当に良く頑張っていた」「マネジメント会議でも大きな反響があった。会社全体としてもスマートワーキングをコンセプトとして動いている過程にあるため、今後も継続して検討していきたい」とコメントを寄せてくださいました。
エイカレ参加は「覚悟を決める」きっかけ
見えていなかったものが見えてきた
実証実験にあたり、実は一番苦労したのは「現場を巻き込む」ことだったそうです。
「これ、やる必要あるの?」というネガティブな反応に対してどう説明するのか。
「面白そう!」「やってみたい」という期待にどう応えていくのか。
新しいことを始める際に起こる摩擦をうまく転換し、力に変えるために、メンバーはそれぞれの発言の背景、理由を想像し、必要な行動を起こしていました。セレクトワーキングの事例やヒントを発信したり、データを交えた説明をしたりと、丁寧に進めることをまずは心がけていたそうです。
時には涙しながらメンバー同士で支え合うこともあったそうですが、このエイカレ参加は一人ひとりにどのような変化をもたらしたでしょうか。
「『当たり前』を壊す経験ができたことで、通常業務でも、もっと良い方法はないか、これは本当に必要なのか、と意識して仕事に取り組むようになった」(森本さん)
「(自分たちで課題設定から行い)新しい企画をゼロから立ち上げたのは、大きな経験になった。新企画の苦労もよくわかったので、新制度が導入される際なども、企画(会社)側の意図を考えたうえで、自分のエリアへの落とし込みを戦略的にしていくようになった」(宮首さん)
「個人で動くことが多い職場だったが、エイカレを通して、チームで成果を上げるという経験ができた。今、自分の所属に戻っても、チーム全体と自分の役割の両方を考えながら動けるようなったと思う。
また、今の環境に満足せず、もっと良くならないかを常に考えるようになった。会議の方法一つにしても改善視点を持つようにしている」(村田さん)
「相手の想いの裏側まで考えるようになった。どんな考えにも背景があり、そこまで知ることで、見えるものが広がる。誰の味方でもありたいと思えるようにもなった」(堀内さん)
「リーダーとしての覚悟を決めるというキッカケになった。自分を変えたい人にはぜひ参加してほしい」(漆原さん)
顧客の潜在ニーズを掘り起こし、手繰り寄せたテーマ
SBGsの皆さんは、エイカレ2021終了後にリフレクション・プログラムを受講してくださっています。プログラムでの振り返り、そして本インタビューを通して感じられたのは、メンバー同士の結束の強さでした。リアルで集まったことが一度もなくても、こんなに支え合い、ぶつかりあうことができるのだと感動しました。
それはメンバーの根底にある「顧客の役に立てる営業でありたい」「働きがいを持って続けられる職場にしたい」という強い気持ちから生まれたものかもしれません。
また、一人ひとりの個性、「多様性」が活かされているチームであったことも印象的です。リーダーが次の課題や方向性を提起するものの、全員でアイデア出しをし、それをデータで補完する人、関係各所の調整をする人、実行段階の懸念をつぶしていく人など、それぞれが力を出し合って進めていたと伺いました。ファイナル・プレゼンテーション前には想定質問を100近く作り、誰かに音声トラブルが起こったとしてもすぐにフォローできる準備をしていたとのこと。協働の強さを十分に発揮されていたようです。
チーム・SBGsは、従来のリーダー像を塗り替え、多様なリーダー像があっていいこと、個の良さを活かした貢献の仕方がチームを強くすることを改めて私たちに見せてくれました。ダイバーシティ&インクルージョンの時代のリーダーシップがここからもっと広がっていくことを期待しています!