2020年2月13日、「新世代エイジョカレッジ(エイカレ) サミット2019」を開催いたしました。
ITによる購買行動の変化、企業のビジネス自体も変革を求められる中で営業職の価値は変わってきました。「営業不要論」が聞かれるようになり、厳しい業務というイメージからか、営業職を敬遠する若手もいます。
今、活躍できる営業には何が必要なのか?営業の価値はどこにあるのか?
今期は15社80名のエイジョが「次世代型営業モデル」と「営業職というキャリアの新しい価値」創出に取り組みました。
本レポートでは最終発表であるサミットの様子とあわせて、全参加企業の実証実験内容をお伝えします。
パネルディスカッション
パネリストは、エイカレ特別審査員の佐藤博樹氏、白河桃子氏、太田彩子氏。
モデレーターはエイカレの企画・運営を担う株式会社チェンジウェーブの佐々木裕子です。
「変化したこと」と「変化しなかったこと」
今期で6年目となるエイカレ。女性の働き方や営業を取り巻く社会は大きく変化しましたが、エイカレフォーラム(キックオフ)でエイジョが口にする「営業は好きだけど、続けたくない」は、それほど変わったようには思えません。
佐藤氏は、「続けるだけなら、体制は整ってきている。ただし、営業という仕事が、面白い・好きと思える状態が続くかどうかは別の話。女性の営業職に、キャリアアップのビジョンや魅力的なロールモデルがないことも原因の一つ」と示唆しました。
白河氏は、「現在は、働き方改革の過渡期。管理職にしわ寄せがきて、マネジメント層の業務量が増えている。(管理職=長時間労働)の構図が、営業職でキャリアアップを目指したくないという思いにつながっている」と説明。また、「職場において男女平等は進んだが、家事育児の負担比率は未だに圧倒的に女性の方が高い」とし、男性(パートナー)の家事育児進出が、女性×営業職の魅力UPに不可欠であると強調しました。
働き方改革で生まれたもの
エイジョの取り組みはイノベーションのカギ
続いて、スマートフォンアンケートで会場の声を聞きました。
現場の変化として「時間外です、とお客様に言えるようになった」という声が多く上がった一方で、労働時間に対する制限が先行し、マネジメントの変化までには至っていないことが挙げられました。
太田氏は「営業の仕事で、同じことの繰り返しでは行き詰まりを感じやすい。マネジメントの変化を待つよりも、一人ひとりの営業がやり方を変えていくことが大事」と指摘。白河氏も「働き方改革によって時間の制約が生まれ、むしろイノベーションが起こりやすい状況」とし、エイジョの取り組みは変革のカギであると強調しました。
ファイナリスト プレゼンテーション
フォーラム部門では、参加した9社13チームの中から事前選考を勝ち抜いたファイナリスト4チームがプレゼンテーションを実施。
大賞と審査員特別賞が選ばれました。
【フォーラム部門 テーマ】
次世代型営業モデルの創出
自分たちの会社、また業界の「当たり前」を疑い労働生産性を上げる
クライアントの変化に対応する顧客価値の追求
【審査基準】
- 破壊と創造:営業の当たり前について、課題を適切に把握し、破壊と創造にチャレンジしている
- 労働生産性:実験開始前後/前年同月比で定量的に比較し、労働生産性が落ちていない
- 顧客価値:より高い顧客価値の提供が出来たか・その可能性があるか
- 巻き込み力:個人だけではなく上司や組織等のサポートが得られている
- 汎用性がある:組織、業界を超えて全体に広がりうる
【審査員】
積田北辰氏 経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室長
佐藤博樹氏 中央大学大学院 戦略経営研究科教授
白河桃子氏 相模女子大学客員教授・作家・少子化ジャーナリスト
太田彩子氏 一般社団法人 営業部女子課の会 代表理事 兼 Founder
エイカレ参加企業 役員等 9名
【フォーラム部門:優秀賞】
「あたらしい 転勤 はじめました」 三菱地所プロパティマネジメント株式会社
転勤という制度の「転居」という当たり前を壊していくことで、営業職の価値だけでなく、働き方そのものにイノベーションを生み出す実験をした「あたらしい 転勤 はじめました」チームが大賞を受賞しました。
営業が提供する顧客価値を「タイムリーでスピーディな対応」とし、プロパティマネジメントという業務の「現地マスト業務」を棚卸し。現地でしかできない業務と、電子化・遠隔化が可能な業務をダイナミックに仕分けしました。実験では実際に大阪から東京の業務を遂行。遠隔可能業務が実験前の45%から85%に増加し、月に数回の出張で「転居を伴わない転勤」という働き方の創出に成功しました。また、クライアントとの打ち合わせをweb会議化したことも、「面と向かって」という当たり前を崩しました。
審査員からは、「全産業の全職種に転用可能で、非常にイノベーティブな取り組み」「転勤という社会的に関心の高い課題に正面切ってチャレンジし、当たり前を壊す大きなヒントを得た」などの評価が寄せられました。
メンバーは、「転勤というワードを出すこと自体が会社としてタブーなのではないかと思いましたが、皆さんが温かく見守ってくださったことに大変感謝します。小さな取り組みですが、社会に一石を投じられたらとても嬉しい」と、喜びを語りました。
【フォーラム部門:審査員特別賞】
東罐興業株式会社 「TOKAN BUSTERS」
今期もファイナリストはどのチームも甲乙つけがたく、審査員特別賞を設けることにしました。
受賞したのはTOKAN BUSTERS。「営業は、時間・体力・鋼のハートを持つ人しかできない」という当たり前を崩すため、営業の分業化を実験。営業業務の80%を占める「社内業務」に特化したPASSER(パサー)という役割を新設し、チーム営業で効率化に取り組みました。また、社内コミュニケーション活性化のために、感謝を伝える「スターポイント」制を実施。554件にのぼるやりとりが行われるなどの成功を収め、社内恒例イベント化推進が決定しました。
審査員からは、「業務改善に留まらず、社員のモチベーションUPにもつながる取り組み」「ポジティブな働き方改革に繋がりそう」「社長を巻き込み会社全体を動かした」などのコメントが上がり、営業という仕事の働き方改革に、大きく寄与する取り組みと評価されました。
受賞メンバーからは、「会社が好き!会社をもっと良くしたい!という想いで走り続けた日々でした。協力してくださった皆さん全員に、ありがとうと言いたいです!」と、感謝の言葉がありました。
【FINALIST】
中外製薬株式会社
【異業種交流提言プログラム部門】
異業種部門は、異業種・他社というメンバーでチームを構成します。
今年のテーマは、「次世代型営業キャリア価値創出モデル」。営業がこれから職種として魅力的になり、営業を目指す人を増やしていくためにどうしたら良いか?という問いに取り組みました。
ブレイク(BREAK)は、異業種部門の中でもメンバー構成が最もダイバーシティだったチーム。実際に会うことができたのは数回で、ほとんどをリモートで進めたそうです。取り組んだテーマは、若手営業が自身のCareer Planding(branding +planning)を実現できる施策です。
まずは第2配属期(入社3~5年目)の若手営業のうち76%が「営業が好きだけど続けたくない」というアンケートを紹介。マネージャーとのキャリア面談が本人にとって有意義な機会になっていないことも明らかにし、未来に希望を持って働けるようになるための「Career Planding Sheet」と、先輩の声を聞く「OB座談会」を提案しました。定期的に自分のスキルや経験の棚卸しを行い、(現在地)と(次の目的地)へ向けて活かせるスキルを知ってもらうことで、各自の成長実感にもつなげることを目指しました。
審査員からは、「当事者ならではの課題感から生まれた素晴らしい取り組み」、「自社にも取り入れたい」など実現性を高く評価するコメントがあり、受賞メンバーは、「この取り組みで、自分だけで考えていても分からないこと・見えてこないものが見つけられるようになります。今回のプロジェクトを通じ、私たち自身も自社メンバーだけでは気づけない視点を得ることができました」と話していました。
審査員
積田北辰氏
経済産業省 経済産業政策局 経済社会政策室長
佐藤博樹氏
中央大学大学院 戦略経営研究科教授
エイカレ参加企業 役員等 9名
白河桃子氏
相模女子大学客員教授・作家・少子化ジャーナリスト
太田彩子氏
一般社団法人 営業部女子課の会 代表理事 兼 Founder
ゲストセッション
APUは 92の国や地域から来る国際学生の割合が 49.1%、「若者の国連」と例えられるほどです。
出口氏は APUのプロモーションビデオを作成したタイ出身の学生が、卒業後ビデオ制作事業で起業し、数々の賞を受賞している例を紹介し、「こんな人材を育てていきたい」という話から講演をスタートさせました。
世の中は「エピソード」ではなく「エビデンス」で見るべし
出口氏:「どんな物事を考えるにあたっても、現状分析が必要です。しかし、人間は誰もが自分の価値観や人生観という色眼鏡をかけているので、世界を素直に見ることができません。だから、世の中をフラットに見るための思考術が必要です。」
出口氏は、世の中をフラットに把握・分析するための思考術として、【タテヨコ思考】を挙げました。
- 【タテ】は、歴史を紐解き昔の人の意見を聞くこと
- 【ヨコ】は、世界の事例と意見を聞くこと
例えば、日本における「夫婦別姓」について【タテヨコ思考】で考えてみましょう。
源頼朝は北条政子と結婚していますが、日本の伝統は夫婦別姓です。世界を見れば、 OECDと呼ばれる37の先進国の中で、法律婚の条件として夫婦別姓を認めていない国は日本を除いて皆無です。
出口氏は、「このようにタテヨコ思考のファクトで考えれば、夫婦同性が日本の伝統だとか、別姓にすると家族が壊れるなどと言っているおじさん・おばさんは、単なる不勉強か、イデオロギーや思い込みが強い人だということが、一発で分かる」と話し、どんな問題も【タテヨコ思考】で考えること、そして「エピソード」ではなく「データ、ファクト」で考えることが重要だとしました。
イノベーションのカギは 女性×ダイバーシティ×高学歴(継続学習)
出口氏:「日本が負けたのは、ユニコーン企業群の成功要因(女性、ダイバーシティ、高学歴)に逆行した動きをしていたから。どんな学者も、イノベーションの鍵はこの3要因だと口を揃えて言っている」
出口氏は、日本の企業の中でイノベーティブなアイデアが生まれない理由として、女性・ダイバーシティ・高学歴(継続学習)の3点について解説しました。
- 女性比率
マーケットでは女性が半分なのに、供給する企業では女性比率数%というのは異常な状態である。
- ダイバーシティ:
2019年ラクビーW杯の日本チームの活躍に鑑みても、混成チームが強いのは明らかである。
- 高学歴~継続学習:
日本は、高度成長期に作られた製造業中心の工場モデル(長時間労働×専業主婦)の価値観を引きずっているため、イノベーションを起こし新しい産業を生み出すための上記 3要素の全てにおいて、遅れをとっている状況である。
(人・本・旅)で勉強をすべし!AI時代でも営業の価値は無くならない
出口氏が強調したのは、「AIがいくら進もうと、人間を相手に商売をしている限り、人間が営業するのが一番強い」こと。では、「営業の価値は何か?」と考えると、その人の(人間力)とその人が持つ(コンテンツ力)。変化が激しい時代において、これらを継続的に高めていくには、(人・本・旅)で学び続けるしかないということです。
「これからも、営業という仕事は絶対に無くならない」という言葉で講演は締めくくられました。
EIJYO COLLEGE SUMMIT 2019 総評
中央大学大学院 戦略経営研究科教授 佐藤博樹氏
エイカレサミットを、毎年とても楽しみにしています。ファイナリストはどのチームも素晴らしい内容でした。今年の特徴として感じたのは2つ。営業の働き方だけでなく、社会全体の働き方・マネジメントを変える取り組みであった点と、家族を巻き込むという視点。ぜひ、これらの取り組みを続けていただき、営業を通じて日本の社会のあり方を変えていって欲しいと思います。
閉会挨拶
実行委員代表 株式会社リクルート 人事統括室ダイバーシティ推進部部長 塚本尚子氏
「一見非常識と思われることが未来を作る」ということを実感いたしました。「転居を伴わない転勤」や「PASSER」などは本当に目から鱗でしたし、営業だけでなく全ての仕事に適用できるものだと思います。私自身も、昭和な飛び込み営業部隊からスタートしておりますが、営業職は特に凄まじいスピードで変わってきたことを経験しています。働き方改革も相まって、変化のスピードは倍速になっていますが、今は全ての仕事を再構築・再定義すべき時代です。エイジョの皆さんが8か月という短期間ですごく成長されるのを拝見して、本当に感銘を受けました。私もこれから引き続き、皆さんと一緒に頑張っていきたいと思います。