新世代エイジョカレッジ セミナーレポート
日本ベーリンガーインゲルハイム 泰道明夫様ご登壇
「自律型人材育成を異業種で」
企業にとって「自律型人材の育成」は、VUCAの時代に事業成長するために避けては通れない課題です。
しかし、業務に責任を持ち、自ら判断・行動できる自律型人材をどのように育てればいいのか…。
頭を悩ますところではないでしょうか。
「新世代エイジョカレッジ(以下、エイカレ)」は、営業の女性(エイジョ)を対象としたプロジェクト型研修として、自律型人材へと成長するお手伝いをしています。
2022年5月に開催したセミナーでは、エイカレの概要をご紹介するとともに、エイカレ2021ファイナリストチーム・日本ベーリンガーインゲルハイム株式会社の事務局、泰道明夫様をお迎えして
- メンバーの取り組み
- 参加後の変化
- 人事担当者の関わり方
などについてお話しいただきました。
当レポートでは、セミナーの内容をまとめてご紹介します。
エイカレは自律型人材を育む場を提供する、
異業種営業変革プラットフォーム
株式会社チェンジウェーブ・鈴木(以下、鈴木):
弊社は人と組織の変革をご支援する会社で、エイカレの企画・運営を務めております。
このエイカレは、企業7社と弊社で2014年に立ち上げた、異業種の営業変革プラットフォームです。
立ち上げのきっかけは、10年で9割の女性が退職や異動などで営業の現場を離れてしまう現実に、課題感を抱いたことでした。
また、2016年にエイカレ白書として実施した調査では、管理職手前の女性約150人のうち
- およそ7割が「営業の仕事が好き」と答えた
- 「続けたい」と答えたのはその半分以下
- 「管理職になりたい」と思う人の割合はさらに下がった
という結果を得ました。
さらにこの調査では「営業を続けたくない」「管理職になりたくない」というのは、労働時間に対するネガティブなイメージを抱いているためではないかということもわかりました。
では、それを変えるにはどうしたらよいか。営業の女性たちに働き方や営業の方法・育成の仕方など、課題解決の仕組みを自ら考えてもらい、実証実験してもらおうというのが現在のエイカレです。
これまでに137社、837名にご参加いただき、実験数は149にのぼります。
一方、人材育成という点で考えてみますと、デジタル化や課題の複雑化により営業自体が大きく変化した結果、営業職における人材育成の難易度は上がっていると言われます。
そうした中で、異業種他社のエイジョから刺激を受け、自身の固定観念を打ち破って視野を広げるとともに、働き方や営業のやり方に対して主体的に動く。そうしたエイカレの「やってみる」という場はとても大事ではないかと思います。成長に必要な「修羅場体験」を、「研修」という、ある意味安全な範囲で経験していただくのがポイントです。
では、参加された企業様ではどんな変化を感じられたのか、泰道様に伺っていきます。
SBGs (Sustainable Boehringer Girls) の実証実験
「セレクトワーキング」について
泰道明夫様:以下、泰道様
我々、日本ベーリンガーインゲルハイムは、ドイツに本社を置く製薬会社です。
2021年に参加したエイジョたち5名(SBGs)の実証実験は「セレクトワーキング」。
従来のMR(医薬情報担当者。製薬会社の営業パーソンのこと)の働き方は、月曜日から金曜日まで働き、土日は休むのが「当たり前」でした。
その働き方を
「土曜日も稼働日とし、MRが自分の好きな日を5日間セレクトする」に変えることによって
- 土曜出勤の医師(顧客)の反応
- 働く日を自主的に選んだMRの意識
- 売上への影響
がどう変化するか実験したのです。
その結果
- 顧客満足度:91%
- 対象者の販売実績アップ率:133%(全社134%)
- 対象者の総面談回数のアップ率:123%(全社121%)
- 「セレクトワーキングは働き方の選択肢になる」と回答した割合:71%
- 「セレクトワーキングによって業務効率化を意識した」と回答した割合:74%
というふうに、セレクトワーキングは顧客・会社・社員の3者すべてにとってベネフィットにつながる働き方ということがわかりました。
この実証実験でセレクトワーキングは、多様化する顧客と労働者の価値観やライフスタイルに寄り添える制度であることが証明されたといえます。
※実証実験について詳しくはこちらから
SUMMIT2021_REPORT 働く日は自分で選ぶ エイジョが労使協定に踏み込んだ理由
エイカレの成果~顕著だったのは、エイジョたちのマインドの変化
鈴木:
エイジョの成長については、どのようにご覧になっておられますか?
泰道様(以下、敬称略):
そうですね。マインドが変化したというのが1番でしょう。
エイカレに参加する前は「(主に)自分のために働く」という視座だったかと思いますが、それがチームのため、社員のため、ひいては働く女性のため、と、目に見えて変化していきました。こうしたマインドの変化は、通常の業務だけではなかなか培えるものではありません。
また、自分の中の「当たり前を破壊したこと」も大きかったと思います。
実証実験中は業務とエイカレの取り組みを両立しなくてはなりません。最初は「とても忙しくて無理」という気持ちが強かったと思いますが、やってみたら、普段の業務はきちんとやりながらエイカレも成功させられた。自分の中の当たり前というか、枠を破壊して「あ、ダブルでもできる」「もっとやれるのかも」という自信につながったんじゃないかと思います。
「本当にやり切れるの?」から「参加させて良かった」へ
鈴木:
ただ、営業は、会社の事業成長に直結する部門です。(実験をするには)負担がかかるということで、消極的な反応もあるのではと思うのですが…。
泰道:
そうですね。当然、現場の上長は売上を落としたくないので、抵抗感のようなものはあったかもしれません。「こんな大変なこと、本当にやり切れるの?」みたいな。ところが、ファイナルに出場して頑張っているエイジョたちを目にすると、全員が「参加させて良かった」と口をそろえて言うようになったんです(笑)。
「こんなことまで頑張ったのか」という驚きというか、エイジョだけではなく、上司の“当たり前“も破壊することにつながったわけですね。
職場、部門を巻き込んだ実証実験や審査会など、エイカレには参加者が本気にならざるを得ない仕組みが満載です。ただ、「エイカレは人が成長するエッセンスを揃えている」ということを口では伝えにくいので、チェンジウェーブ社が出しているアンケート結果など参加者たちの生の声を引用しました。これが一番効果的でした。
参加者の選定方法は、人材育成の目的によって使い分ける
鈴木:
参加するエイジョを選ぶにあたり、2020年度は上長の推薦、そして2021年度は手挙げ制にされたそうですが、どんな意図があったのでしょうか。
泰道:
1年目の支店長推薦、これはこれですごくうまくいったんですよ。彼女たちも頑張ってファイナルにも出ましたしね。
ただ、私の中に思い入れがあって、2年目は手挙げ式に変えました。立候補というのは、そこに費やすエネルギーも必要ですし、何より勇気がいることです。
そういう意味で自ら手を挙げた人というのは、その時からもう彼女自身の変革が起こり始めていると思うんですね。それは参加者の成長にとってプラスですし、仮に選考で選ばれなかったとしても、成長のきっかけになる。そうした意味で手挙げ式を選択しました。
ただ、上長の推薦は、育てたい人材をピンポイントで参加させることができますので、参加者の選定は戦略や目的によって使い分けたら良いと思います。
エイジョたち本人がエイカレに参加して実感した” 変化” とは
鈴木:
本日は、2021年度ファイナリスト・SBGsの漆原李理さんと宮首舞さんが参加してくださっています。エイカレに参加した感想や、やる気のスイッチが入ったのはいつだったのか等、伺いたいと思います。
宮首様:
参加した当初は、将来のビジョンが不明確のまま応募した私が、自社・他社の方と建設的な話し合いができるのだろうかという不安がありました。けれども、実際に話をしてみると、皆が同様の悩みを抱えていることがわかり、励まされました。
自分のキャリアや会社の戦略などについて考えるきっかけにもなったので、(エイカレの参加は)自分の変革につながったというふうに考えております。
鈴木:
ありがとうございます。続いて、漆原さんに伺います。振り返りの時間に「リーダーになる覚悟が決まった」とおっしゃっていたのがとても印象的だったのですが…。
漆原様:
私自身、リーダーに向いていないとずっと思っていたんですけれども、みんなが「リーダーをやりませんか」と言ってくれました。「じゃあ、やってみようかな 」とシフトチェンジした時が、本当に覚悟を決めた瞬間でした。決めたあとは、リーダーとしてどう振る舞うべきかとか、どういうふうに個人を采配していけばいいんだろうかというのをすごく考えるようになったので、本当にエイジョを通してリーダーになるきっかけというか、覚悟というものを決める瞬間をいただいたというふうに思います。
宮首様:
メンバーをとても上手に使うリーダーというか、メンバーの私たちから見ていても「色々なリーダーのあり方があるんだ」「漆原さんの良さ、自分たちの強みを活かせばいいんだ」と思えました。
チームのあり方、リーダーのあり方を考え直す機会だったなと感じています。
エイカレ参加を検討されている担当者様へ。
泰道様からのメッセージ
泰道様:
事務局として一番気になるのは、エイカレに参加したらどれだけ大変なの?という点だと思います。ただ、基本的にはメンバーに任せる。自主性を奪わないことが大切だと考えています。
事務局としては見守るスタンスで、エイジョが動きやすい環境を整えることに徹するとよいのでは。エイカレ参加企業の事務局ミーティングで、他企業の事例も学べると思います。
エイカレに参加するかどうか検討している時に、社内で言ったんです。「ダイバーシティはやるかやらないか。やるんだったら早くしないと手遅れになる」と。
実は、2020年にエイカレに参加した社員が、翌年、営業所長に昇格しました。これはエイカレのおかげだと思っているのですが、スイッチが入ったんですね。もし、来年でも良いと先延ばししていたら、営業所長になった彼女のデベロップメントの機会を奪うことになっていました。ここは事務局として、勇気を出して1歩踏み出すところだと考えています。
鈴木:
ありがとうございます。
与えられた枠内で120%頑張る、というフェーズから抜け、「課題設定から挑戦」「組織の視点で取り組み内容を考える」「自分たちだけでやり抜く」というエイカレの経験は、いわゆる自律型人材を育てるスタート地点になるのではないかと思います。
本日は日本ベーリンガーインゲルハイムの泰道明夫様にお話しいただきました。大変貴重なお話、ありがとうございました!