異業種で営業変革と女性社員の育成を目指すプロジェクト・新世代エイジョカレッジ(エイカレ)は、2014年のスタートから現在までに、のべ104社、661人にご参加いただいております。
エイカレのプログラムは約半年間です。参加者は、企業別チームで生産性向上と顧客価値の創造につながる『実証実験』を行い、課題解決に向けた提言(最終プレゼン)を実施。プログラムの最後に開催される「エイカレサミット」では、フォーラム部門ファイナリストの実証実験結果発表・大賞の表彰、異業種部門最優秀賞受賞チームの発表が行われます。
2020年2月13日に開催された「エイカレサミット2019」のオープニングでは、エイカレの特別審査員である佐藤博樹氏(中央大学大学院 戦略経営研究科教授)、白河桃子氏(相模女子大学客員教授・作家・少子化ジャーナリスト)、太田彩子氏(一般社団法人 営業部女子課の会 代表理事 兼 Founder)にご登壇いただき、パネルディスカッションを行いました。
モデレーターは、エイカレの企画・運営を担う株式会社チェンジウェーブの佐々木裕子。
営業の変化を目の当たりにしながら、エイジョの活動をご覧いただいているこの3名の専門家の皆様に、「営業をめぐる変化と未来」「営業のこれからの価値」についてお話を伺いました。(前編)
営業を取り巻く環境の「変化したこと」と「変化しなかったこと」
― 佐々木裕子(以下、佐々木)
現在、私たちが直面しているのは、「業界構造変化の加速」・「組織の多様化」・「働き方改革」という、どれもかなり大きな変化であり、この3つが同時に来ているという、かつてない変化の中にあると感じます。
一方で、毎年、エイジョの皆さんがキックオフとなるエイカレ・フォーラムで何を言うかというと、「営業は好きなんだけど、続けたくない」。この言葉に関しては、2014年の開始以来からずっと発言率が変わらないというのが私の体感です。これは、変わっていないのか?それとも、もっと加速しているのか?先生方は、どのようなご認識でいらっしゃいますか?
― 佐藤博樹氏(以下、佐藤氏)
営業という仕事を「続けたくない」ということなんですが、「続けるだけ」なら続けられるようになってきていると思います。働き方改革によって、制度としては男性も含めて結婚や出産という変化があっても続けられるようになってきている。
しかし問題は、これまで「好きだ」「面白い」と思ってやっていた営業という仕事を、これからも同じような気持ちでやっていけるかどうかということと、続けていけばいずれ管理職になっていくわけなので、キャリアアップした時のキャリアがイメージできる状態になっているかということ。
現在はまだ、キャリアアップした先のキャリアがどうなっていくのか、うまく見せてあげることができていないと思います。これから、営業職でもさらに女性管理職が増えていくでしょうから、現在はその過渡期にあるかもしれません。
「変化したこと」と「変化しなかったこと」
― 佐々木
ちなみに、昨年は営業職の管理職の皆様を対象にアンケート調査をし、マネジメント現場の状況を聞きました。その結果を見て、「マネジメント層の負荷が高まっている」ということが浮き彫りになってきているように感じたのですが、いかがでしょうか?
― 白河桃子氏(以下、白河氏)
働き方改革の裏で、実は管理職の皆さんに業務を丸投げしている企業が多く、実際に管理職の業務量は1.5倍くらいに上がっているというデータもあります。ただでさえ多様性マネジメントの中で管理職のマネジメント負荷が高まる中で、労働時間は長期化しているんですね。
以前、私が製薬業界の女性営業職の方にインタビューした時に、「この先、管理職として長く続けていくイメージはない」と回答されたのですが、それはなぜかと言うと「管理職になると長時間労働になるから」という理由を挙げられました。
女性は出産されて育児が始まると、いまだに家庭の中では男性の5倍も家事育児をしている。家庭の中は全く男女平等ではないのに、会社の中では女性活躍が叫ばれ男女平等が進んでいます。この状況の中で、女性に活躍しろというのは到底無理な話ですよね。
現在、女性に足りていないのは、シンプルに「時間」。これに対する対策としては、男性の家庭進出が必要不可欠です。人間には24時間しかないわけなので、パートナーの一方が長時間働きすぎることによって、もう片方のキャリアが閉ざされたり、あるいは年収が低くなるということが調査でも明らかになっています。
― 佐藤氏
今の管理職の働き方が、そもそも魅力的な働き方じゃないというのは、本当にその通りだと思います。
一方で気づいてほしいのは、皆さんが管理職になった時に、現在の管理職の働き方を真似する必要はないということです。つまり、皆さんが、管理職の働き方を魅力的に変えていくという視点を持つことが大切だと思うんです。
直面しているのは「マンネリ感」と
「行き詰まり感」
― 太田彩子氏(以下、太田氏)
実は私の団体(営業部女子課の会)で、全く同じアンケートをとっていて、全く同じ回答が出ています。働き改革が進んでいく中で、物理的な条件、つまりハード面では働きやすくなってきている一方で、疲弊感のような心理的なハードルは逆に高まってきていると感じます。
― 佐々木
働き方改革によって、ハード面としては時間的な余裕は出てきていると思うんですが、精神的には厳しい状況ということですか?
― 太田氏
私が営業の皆さんにキャリア面談をしている中で、よく出てくるキーワードは2つで、「マンネリ感」と「行き詰まり感」。営業の仕事は目標を達成しても、期が変わるとまた目標はリセットされますよね。営業を続けているうちに、「私、いつまでこのラットレースを続けていくんだろう?」という疑問が起こってくるんですよね。これが「マンネリ感」。
もう1つの「行き詰まり感」の方も精神的なもので、これらを何とかしていかないと、営業を続けたいという気持ちは起こらないのではと思っています。
― 佐々木
それは環境変化などによって、生まれているんですか?
― 佐藤氏
もしかしたら、本当の「働き方改革」ができているかどうか、ということかもしれません。「残業減らせ」というだけで働き方は今と同じだったらひずみが出るわけです。
仕事の進め方やマネジメントのあり方そのものを変えていくことに取り組むことができている企業は、案外少ないのかもしれません。
残業削減で生まれた時間で、例えば男性の家庭進出を進めるといったような「生活の仕方」が変わるような働き方改革に繋がっていないと、時間だけを削減してもストレスは減らないかもしれませんね。
営業の役割そのものを再定義すべき時代へ
― 佐々木
確かに残業を削減することは進んでいますが、現在は、成果の方は上げていかなければいけない状況ですよね。時間削減がなかったとしても、そもそも成果を上げること自体がものすごく難しい時代でありますから、これまでの枠組みを超えた形でモデルを作らないといけない、営業の役割自体が再定義されていかなければいけない時代になってきたのかもしれないと感じます。その辺りは、皆さん、どのように感じていらっしゃいますか?
― 白河氏
私もエイカレを見ていて、2年くらい前に「おっ」と思ったのですが、「営業という名前のままでいいのかな」という話があがっていたんです。自らを否定できる強さってすごいなと感じました。
当たり前を壊すということがエイジョの一番のミッションでありますが、女性は働き方自体にも疑問を持っていますし、将来に対してもまっすぐな階段が続いているわけじゃない。
この業界構造の変化にあって、当たり前を壊すことが求められている中、実はそれができるのは、女性なんじゃないかなと思っています。
― 佐藤氏
営業が、お客様に新しい価値を提供していく、営業の仕方を変えていかなければならないという状況において、営業に求められるスキルも変わってくると思います。皆さんが今まで身につけられた現場のスキルだけでは対応できなくなってくると予想します。
これからの営業には、お客様の見えない課題を明らかにし、それを解決していくことを考えていく『コンセプチャルスキル』が必要になってくるでしょう。上司はそういうことをやってきてないから、これはOJTでは学べない。したがって、働き方改革で生まれた時間を、仕事と少し距離をおいて、外の世界からインプットを得るために使っていくことが大切になるんじゃないかなと思っています。
後編はこちらをご覧ください。
エイカレサミット2019
パネルディスカッション・レポート【詳細/後編】