エイカレ2020 特別賞受賞企業に聞く
事務局の関わりと社内の反応
エイカレの主人公はエイジョ(営業職女性)ですが、変革の実証実験を進める中では、周囲を巻き込み、顧客価値の向上につながるものであることをポイントとしています。
また、その取り組みを支援する各社の事務局(※)も重要な存在です。エイカレを企画・運営するチェンジウェーブでは、2021年6月にオンラインセミナーを開催。事務局の関わり方などについて、2020年度に特別賞を受賞した協和キリンの真下慶子様にお話を伺いました。
このセミナーには、特別審査員の白河桃子様もご参加くださり、エイカレに期待するものについてコメントしてくださっています。
聞き手はチェンジウェーブ・鈴木富貴です。
※事務局:各参加企業の人事ご担当、ダイバーシティ推進ご担当、営業企画・人事等の方々
女性活躍推進には経営職側と女性側、双方への働きかけが必要
「営業を変えたい」の気持ちで参加を決定
真下慶子様
協和キリン株式会社
営業企画部人事グループ
兼人事部多様性・健康・組織開発グループ
鈴木富貴
株式会社チェンジウェーブ
執行役員 変革ソリューション事業部
鈴木:
まずはエイカレ2020、初参加での特別賞受賞、おめでとうございます。参加を決められた経緯からお話しいただけますか?
真下様:(以下、真下)
ありがとうございます!
初参加でしたが、ぜひ結果を出したいとエイジョと共に頑張ってきましたので、大変嬉しく思いました。
エイカレ参加の経緯について申し上げると、まず、当社は全社で見ても女性社員は30%ほど、MR(営業)に絞ると20%程度しかおりませんので、当初は女性だけを対象とした研修への参加に賛意を得ることは難しかったです。
ですが、私自身が元MRで、現場で様々な課題を感じてきましたし、現職になってからは社内で女性に対する無意識のバイアスを感じるようなこともありました。ただ、イメージや感情論で訴えても理解をしてもらうことは難しいと思いましたので、人事に関わる定量的・定性的なデータを集めて可視化し、幹部会に直談判しました。
また、女性活躍推進には、経営職側と当事者である女性、双方に働きかけて行っていく必要があると訴えてエイカレへの参加を説得して回りました。
具体的には、人事部と営業本部の両方に話を持ち込み徐々に理解者を増やしていきました。「今回成果が出せなかったら、来年は参加できなくても構わないので、1度だけチャンスが欲しい」と社内説得をして、期中に緊急予算をつけてもらい、参加を決定しました。
鈴木:
データと熱意で動かしていったとのこと、素晴らしいですね。ちなみに、弊社は無意識バイアス(アンコンシャスバイアス)対処のeラーニングツールを開発しているのですが、非管理職の女性で、性別の無意識バイアスが強いというデータがあるんです。
真下:
そうなんですね。確かに、優秀で成績をあげているMRでも、自分に自信が持てなかったり、謙遜してしまったりするので、女性には、自己肯定感/自己効力感を持てるような体験が、ライフイベントを迎える前に必要だと思います。
「やればできる」自分たちが組織を変える体験ができた
鈴木:
エイカレはそうした体験になったでしょうか?エイジョにはどのような変化がありましたか?
真下:
当社は、各拠点で特に活躍している女性MRの中から5名を選抜して参加してもらいました。
営業本部は1500~1600人くらいの大所帯なので、エイジョは「自分たちの働きかけで組織が変わる」なんて想像もしていなかったと思います。実際、テーマを決めるまでにもずいぶん苦戦しました。
でも、アイデアを持ち寄って議論を重ねるうちに、自分たちの意見が籠った実験になりましたので、本気度や加速度は素晴らしかったと思います。
しかも、実験を経て「本当に組織が動いた」ので、彼女たちにとって大きな成功体験になりました。「やればできるんだ!諦めずに挑戦すればこんなことが起きるんだ!」と体感できたことで視座やエンゲージメントが上がりました。今、彼女たちは営業本部から始まったこの試みを、全社に展開すべく自走しています。
2021年度は公募制でエイカレに参加しようと考えていますが、2020年度に賞を頂けたことで注目度も上がりましたし、彼女たちの頑張りを見て「自分もやってみたい」「どうやったら参加できるのか」という嬉しい問い合わせも届いています。
鈴木:
エイジョに変化が広がっているんですね。嬉しいです。実証実験に対する社内での反応はいかがでしたか?
真下:
研修開始当初から、コーポレートコミュニケーション部に協力してもらい、全社発信を行いました。初めは「女性だけでやっている取組みなのだから、男性は関係ないでしょ」という声もありましたが、実証実験の内容が性差に関係のないテーマでしたので、徐々に理解が広まっていったように感じました。また、タイミングよく、当社内でも企業文化改革プロジェクトが走っており、その実践例としてエイジョ5名の活動を取り上げてもらうことができたので、エイジョたちのモチベーション向上にも役立ちました。
協和キリン KKCheer’sの実証実験はこちら
事務局としての関わり
鈴木:
事務局としてエイジョたちに伴走された経験はいかがでしたか?
真下:
振り返ると、私自身のマネジメント経験にもなりました。エイジョの主体性が第一ですから、本人たちのやる気を引き出しつつも、困った時は相談できる「ほどよい距離感」が大切だったと感じています。また、社内調整にあたって、多くの役員のご協力を得る必要がありましたので、調整力も鍛えられました。エイカレ終了後には、部門を越えたプロジェクトにも関わる機会が増え、私自身も仕事の幅が広がりました。
「エイカレには未来がある」
特別審査員 白河桃子様から
鈴木:
本日はエイカレの有識者審査員を務めてくださっている、白河桃子さんもご参加くださっています。白河さんはエイカレのどんなところに意義を感じてくださっているのでしょうか?
白河桃子様
ジャーナリスト
相模女子大学大学院特任教授昭和女子大学客員教授
白河桃子様:以下、白河
一言で言えば 「エイカレには未来がある」ということです。
コロナという非常事態の発生により、営業スタイル、業態、ビジネスモデルそのものが変化せざるを得なかった業界もあるかと思います。この変化は不可逆的なものであり、DXにしろ、働き方改革にしろ、ダイバーシティにしろ、本来ならばとっくに取り組んでいなくてはならなかったことが、コロナの影響で急速に進みました。
実はエイカレでは、オンライン営業や転居を伴わない転勤など、オンライン時代に向けた営業モデルについて、何年も前から取り組んできました。 エイジョ自身が、コロナ以前からその課題に気づいて取り組んできたという価値は、本当に大きいと思います。そして、この価値こそがダイバーシティの価値です。ダイバーシティを早く取り入れていれば、日本企業にもっと早く変化は起こったのではないかと感じていますし、企業には 「エイカレに参加すると未来を先取りできる」ということをもっと知っていただきたいと思います。
「女性だけの研修」の意義は
鈴木:
人材育成という点ではいかがでしょうか?
白河:
エイカレの素晴らしいところは、自社ではマイノリティである営業女性たちが、他社の営業女性と一堂に会し、マイノリティでない環境で自分たちの本来の能力やエネルギーを解き放つ経験ができるところです。
企業の人事担当者にぜひ見学してもらいたいのですが、自社にいる時の営業女性たちは、無意識のバイアスや人材マネジメント設計の不備(「良いプロフェッショナル」の定義が固定的、旧来の「男性」に対して有利に設定されている)により、本来の能力を発揮できていないことがあるのだと思います。ガラスの天井とも呼ばれますが、女性がキャリアを志向する際の妨げになる無意識のバイアスが私たちの周りには無数にあるからです。
そうした背景を考えたとき、エイカレという場は、そのガラスの天井をパリンと割って、閉じ込められていた女性の本来の能力を引き出し、場の力でそれを何倍にも高める機会として優れていると思います。女性だけを対象にした研修に対して懐疑的な声もあるとは思いますが、日本は先進国の中では極端にジェンダーギャップがあり、まずは男性からのプレッシャーやバイアスのない環境で女性が実力を存分に発揮する場を作ることは、第一段階としてはまだ必要だと考えます。
鈴木:
営業についても、コロナを経てさらに変革が迫られていると思いますが。
白河:
今後、営業の存在意義自体が以前とは異なっていくのだろうと感じています。
これまでのエイジョの皆さんのプレゼンからも、顧客から求められるレベルが上がり、担当者1人だけの知識で対応することが難しくなってきたことが挙げられています。このために必要な社内の様々な専門家やリソース活用がなかなかできていないということも。
その裏側には、1社に対して担当者は1人でなければならないという古い価値観や無意識の思い込みがあります。時間制約を受けやすい女性は、そうした価値観の中では生きづらい。だからこそ、この「当たり前」を打破するような斬新なアイデアを生み出せたのではないかと思います。
何年か前のエイジョが「未来の営業は、営業という名前ではないかもしれない」という発表をしていました。自らを否定することは、過去の成功体験にとらわれている人にはできません。これは若い方の強みであり、特に未来を先取りする生き方をしている女性の苦労は、新しい時代への気づきや未来を切り拓く武器になることもあります。今後ともエイジョの皆様にはとても期待していますし、頑張って欲しいと思います。
鈴木:
ありがとうございます。
本日は協和キリンの真下様、白河桃子様にお話しいただきました。