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新世代エイジョカレッジ セミナーレポート
「女性だけ」に機会提供は必要か
~エイカレ大賞チームと有識者に聞く~

ダイバーシティを進めるうえで、まずは女性活躍推進、という企業は多いと思います。2021年、コーポレートガバナンス・コードが改訂されたこともあり、今年は企業の株主総会でも、投資家から女性管理職比率が問われる場面が多く見られるようになったと伺います。
しかし一方では、企業内に「女性だけに機会を提供するのはどうなのか」という声があがるのも現実のようです。
 
営業職女性のさらなる活躍と営業変革を目指す新世代エイジョカレッジ(エイカレ)では、20226月にオンラインセミナーを開催、2021年度に大賞を受賞された「ぎぶみー5」チーム、中外製薬株式会社様(以下、中外製薬様)と、特別審査員の太田彩子さんをゲストに迎え、「女性への機会提供の意義」について伺いました。
 

※本記事はセミナーの一部を再構成して作成いたしました。


スピーカー紹介

水沼 絵美里 様
中外製薬株式会社
関東北・甲信越統括支店

 

川上 英治 様
中外製薬株式会社
営業人財マネジメント部

 

太田 彩子 様
一般社団法人営業部女子課の会 代表理事 兼 Founder
株式会社ベレフェクト 代表取締役

モデレーター

鈴木 富貴
株式会社チェンジウェーブ
上席執行役員

中外製薬様の実証実験
ぎぶみー5「不妊治療シミュレーション発動します!!」

 
水沼 絵美里 様:(以下 水沼 様)
まずは、私達の実証実験をご紹介します。この「不妊治療シミュレーション発動します!!」は、「不妊治療と仕事の両立」をテーマに掲げたものです。
不妊治療については、まだ認知度が高いとは言えませんし、通院日が固定できない等の難しさもあるうえ、周囲に話しにくいセンシティブなことです。代わりがきかない営業職が不妊治療を受けることになったら、仕事を続けるのは難しいとさえ考えてしまいます。
そこで私たちは、この「言いづらい」を破壊するべく、2つの実証実験を行いました。

  • ①ライフサポート検証:部下と上司の間で不妊治療やライフプランについて話す機会を設けて、精神的な負担を軽減する

  •  
  • ②不妊治療シミュレーション:営業の属人化を破壊し、チームで支え合う営業を展開して仕事の負担を軽減する

 
これらの実証実験と並行して、疾患啓発(座談会動画や知見者へのインタビュー動画の配信)も実施しました。実証実験の結果は以下のとおりです。

1)ライフサポート検証の結果


①ライフサポート検証の結果
 
 

2)不妊治療シミュレーション検証の結果


②不妊治療シミュレーション検証の結果
 
 

3)疾患啓発を実践した結果


③疾患啓発を実践した結果

 

 

これらの結果から、「不妊治療の言いづらさ」は一定の割合で破壊できたのではないかと考えております。
実は、今回、女性よりむしろ男性社員からの反響というのが多くありました。「よく取り上げてくれた」と。男性上司からは「触れにくいテーマを取り上げたのが良かった」「女性から声を上げた意義は大きい」と言っていただきました。
 
川上 様(以下、川上 様):
私から見ていても、男性・女性にかかわらず、多くの人を巻き込んでいるという印象がありましたね。実験終了後、営業本部からも「これをそのまま終わらせず、今後につなげよう」という声が出ています。


ディスカッション:女性に成長機会を提供する意義とは

 
鈴木
エイジョの実験が社内に広がっていくのは、素晴らしいですね。では、水沼さんにお伺いします。この実験を「やり抜こう」という原動力は何だったのでしょうか。通常の業務もお忙しい中で、上乗せになるわけですが…。
 
水沼
不妊治療に関する悩みを抱えている人が結構いまして、その人達をなんとかして救いたいというのが原動力になったと思います。
 
また、自分自身の仕事への取り組み方という面で言うと、正直、これまで働き方改革 に関しては受け身なところがあったように思いますが、実証実験を通じて自分が組織を動かしていこうという積極的な姿勢に変わりました。これは、他のチームメンバーも同じだと思います。
 
鈴木
変革リーダーとなられた皆さんの自覚というのか、腹決めというのか、それはいろいろな大変さを乗り越えてこられたからなのでしょうね。
 
川上さんは「女性に限定した育成の機会というのは、いかがなものか」と社内で言われたことはありますか?
 
川上
「女性ばっかり」というのは、多くの会社にあると思います。
ただ、今まで女性がマイノリティでやってきて評価されにくかったのだとすれば、あえて女性にスポットをあて、その頑張りを見てもらうのは、すごく重要な機会だと個人的には感じました。
 
営業職はクリエイティブな取り組み方ができる仕事ではありますが、ゼロベースで何かを作り上げる経験というのは、実はそんなに多くないんです。そうした意味でも自由な発想で取り組むエイカレは貴重な機会ですし、「組織に文句を言う」のでなく「自分たちが変える」という意識になる点でも参加させて良かったと思っています。
 
鈴木
ありがとうございます。続いて、太田さんにもお伺いします。
 
太田 彩子 様:(以下、太田 様)
結論を申し上げますと、「女性のみの研修」、つまり「女性だけが参加する研修」が女性活躍や多様性推進に有効かどうか、正解か不正解か、この場で答えを出すのは非常に難しいと思います。会社の戦略や方針などによって違ってくると思うからです。とはいえ、本日はあえてこの難しいテーマを考えることで、それぞれの企業が今後どのように取り組んでいくのか、ヒントやきっかけになればと願っています。
 
まず「女性だけの研修」の是非を考える時、気をつけなければならないことがあると感じています。


女性社員本人にとってネガティブなイメージが生まれる可能性を想定しておく

 
例えば「女性社員向けの研修会」などを計画し、人事部より参加を促したときに
「なぜ女性だけなんですか? 男性にこそ研修を受けてほしいんですけれど」と嫌悪感のようなものを、一部の女性社員より示されたことはありませんか?
この場合、参加を促された本人は「女性だけ」という表現に、ネガティブなイメージを喚起された可能性があります。(しかし、当然ながら個人差があるため、ポジティブに受け止める人もいる可能性もあります。)
 
このイメージの裏側にあるのは「ステレオタイプ」への嫌悪かもしれません。
ステレオタイプとは、心理学の領域では「ある集団やカテゴリーでその人の役割や行動などの属性を結びつけている現象」を意味します。例えば「管理職は男性」という「結びつき」は、ジェンダーステレオタイプの一種。要するに「固定観念」です。
 
「女性だけの研修」への参加を促され、嫌悪感を示した女性がいるとすれば、そこから「営業職とは本来、男性が活躍する職種」「女性は長くは続けられない仕事」「よって女性は男性より不利」「だから女性だけの研修が必要」というようなイメージの連鎖を受け取り、ステレオタイプな考え方をかぎ取った可能性があります。
そして、ネガティブなステレオタイプが喚起されると、本人のパフォーマンスや意欲が阻害され、そこから自己を遠ざけようとする可能性も示す先行研究もあるようです。

しかしながら先述したとおり、反応には個人差があり、さらなる検討が必要です。あくまでも「そんな可能性もある」に留めていただくとよいかもしれません。
 
ではどうすればいいのか?
ヒントとして、2つのポイントを挙げたいと思います。
 
 

ピアの観点から、研修の効果をとらえてみる

 
ピアというのは、立場や地位がほぼ同等である仲間であることを示します。
ピア同士で学び合う学習効果には、3つの特性があると、先行研究では言われています。
 

  • 1つめが互恵性。お互いに恵みをもたらす。
  • 2つめが対等性。立場が同じ同質の人であるからこそ意見を言いやすい。
  • 3つめが自発性。 ピアだからこそ、能動的に課題を発見・解決しやすくなる効果。

 
このように、同じような立場やキャリア、似た悩みを持つ者同士で学び合う機会から、得られるものはありそうです。
つまり「女性」という括りだけではなく、そこに別の角度や視点も加えて、参加者本人が「同じ悩みを持っている人たちと一緒に学びたい」「似ているキャリアを積んできた人たちと話してみたい」と感じられるような研修を模索してみるというのはどうでしょう。
 
 

エクイティの観点から、リスキリング(教育)に取り組む

 
「そもそも論」にはなりますが、「女性だけの研修」に意味があるかどうかを考える前に、自社がいま立っている地点や抱えている問題点、それらと本来あるべき姿、目指すべき場所とのギャップはなにかを、正確に把握することが大切なのではないでしょうか。
そのギャップを埋めるのがリスキリング(教育)だと思われます。
研修は、その先にある機会提供です。
 
そこで大切になってくるのがエクイティという観点です。
人事担当の皆さまには釈迦に説法ではありますが、エクイティとは、個々がパフォーマンスを出せるよう「公平な土台」をつくっていくことです。
どんなに工夫を凝らした研修を行っても、そもそも人材構造がアンバランスなのでは、その内容や効果は各社員に行き届かず、格差も縮まらないということになります。
 
2022年は「人的資本元年」と言われています。
2021年に改定された「コーポレートガバナンス・コード」ならびに「投資家と企業の対話ガイドライン」に加えて、2022年の「人材版伊藤レポート2.0」。
共通するのは、自社の経営戦略、事業ポートフォリオの転換に合わせた人材戦略とその情報開示です。実際に、どれだけ人に教育投資しているのかを定量的に測定し、情報開示する企業も増えています。
 
人財投資は、情報開示のためにするものではありません。しかし「企業として目標値を目指す」ことを前提にしながらも、社内だけではなく社外にも分かるように、エクイティを重視しながらリスキリングを行い、効果的な研修につなげていく。
そういったことを進められれば、企業にとっても、社員本人にとっても、良い効果が生まれることは間違いありません。
 
本日の私の話をまとめると
・「女性だけの研修」は、当事者にとってネガティブな効果が生まれる可能性も否定できない。その点に留意しながら、丁寧に説明し、工夫して進めていくことが重要。
・会社がいま置かれている地点と到達したい地点のギャップを把握したうえで、的確な人財投資を行う。

ということです。企業それぞれの考えを整理する参考になれれば嬉しいです。


まとめ

 
鈴木
ありがとうございました。女性活躍は単体のものでなく、自社の人財戦略にどうつながっているのか、また、エクイティという観点が重要であるというお話、大変学びになりました。
また、中外製薬様からは、エイジョが始めた変革を社内、社会に広げていく、というエイカレの実証実験方式が機能していると伺ってとても嬉しく思いました。
 
最後に、ご登壇いただきました皆様から、エイカレへの感想をいただきたいと思います。
 
水沼様
エイカレに参加して自分の新たな「できる」面を発見し、自分たちの考えを会社に発信する大切さに気づきました。非常に貴重な機会を与えていただき、参加して良かったと思います。
 
川上様
今回は有難いことに大賞を受賞させてもらいましたけれど、賞というより、苦労して自分たちでやり抜く点に、エイカレに参加する意義があると思いました。
細かく組み立てる研修 もありますが、それよりもまず本人たちに悩んでもらう。それが成長の機会だと考えると、自分たちで悩みながら実証実験に取り組めるエイカレは、良い機会だと確信しています。
 
太田様
エイカレへの参加は、拡大版サクセッションプラン、つまり次世代のリーダー候補を育てていく大きく、かつ重要な投資であると思っています。今年もエイカレでエイジョの元気な姿にお会いできることを楽しみにしております。
 
鈴木
皆様、ありがとうございました。


SUMMIT 2021
2月22日開催終了

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