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SUMMIT2021 REPORT
不妊治療を契機に「見えにくい悩み」を言いやすく
属人化しない営業へ

不妊の検査や治療を受ける人は年々増え、現在、夫婦全体の2割ほどいると言われます。
しかしながら、厚生労働省の調査によれば、企業の67%は治療している従業員を把握しておらず、不妊治療を理由に離職した人も35%います。
 
「不妊治療と仕事の両立に悩んでいる人がいても、見えていないのではないか」
「業務の属人化は、両立不安をさらに悪化させるのではないか」
 
表面化しづらい不妊治療の悩みを言いやすくし、営業の属人化を打破する仕組み作りに取り組んだ、中外製薬株式会社「ぎぶみー5」チームの事例をご紹介します。

ぎぶみー5・実証実験「不妊治療シミュレーション、発動します!」

目指すゴール
「不妊治療の悩みが言いづらい」を破壊する
チームでフォローし、支え合える環境を作り、属人化しない営業を創る

実施方法
ライフサポート検証(ライフとキャリアに関する面談)の実施
・面談のための上司向けマニュアル・聞き取りシート等の作成
・不妊治療シミュレーション(治療をオープンにし、チーム制で業務をサポート)

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「不妊治療シミュレーション、発動します!」は、エイカレサミット2021で見事、大賞に輝いた実証実験です。
これまでの両立支援(育児と仕事)では届かなかった課題にアプローチしたのに加え不妊治療以外の「言いづらい」「可視化されにくい」課題~介護や病気治療、家庭の問題など~にも通じる汎用性があるとして高く評価されました。
 
実験にはどんな苦労があったのか、実際行動してみて、一番大きな気づきは何だったのか、5人の営業女性(エイジョ)に話を伺いました。
 

※撮影時のみマスクを外しております

 

中外製薬株式会社 ぎぶみー5 メンバー

水沼絵美里さん
村瀬沙織さん
三浦優花さん
西峯光莉さん
竹内沙織さん


センシティブな問題だからこそ、取り組む価値がある

 
「テーマ決めが一番大変だった」とメンバー全員が口を揃えました。
社内の制度が充実しているため、話し合ってもなかなか課題となるものが浮かばなかったとのこと。毎日のようにオンラインで本音トークを続けるうちに、ようやく「生理」と「不妊治療」が候補に挙がったそうです。
その後、不妊治療の当事者から経験談が共有されるうちに、就労が困難になってしまうケースもあるくらい深刻であること女性だけでなく男性も関わる問題であることを改めて実感し、不妊治療をテーマにしようと決めました。
 
急な通院が必要になる不妊治療は、スケジュール管理が難しく、パートナーや自分の転勤によって治療自体ができなくなってしまうこともあります。
精神面の負担も大きそうですが、社内でアンケート調査を実施したところ「社内で話したり相談したりしたことはない」と答えた人が治療経験者の半数以上(51%)いることが分かりました。
 
 

 

非当事者との認識ギャップ
キャリア構築への不安が「言いづらさ」につながる

 
アンケートや実証実験を進める過程で、最も驚いたのは「言いづらい」という認識に対するギャップでした。
 
ある社員は、悩んだ末に不妊治療中であることを上司に伝えたところ、「どうして(不妊治療が)言いづらいのかがわからない」という反応が返ってきて驚いた、とのこと。理解ある上司でもそうしたギャップがあるのだと気づいたそうです。
また、「上司に打ち明けたら仕事の優先順位が低いとみなされ、仕事のチャンスが回って来なくなってしまうのではないかという不安を持つ人もいる。キャリアに対して真剣であればあるほど、上司に言いづらくなるかもしれない」と話してくれたエイジョもいました。
 
不妊治療は生殖に関わるプライベートな領域であり、オープンに話すことに抵抗のある方もいます。また、不妊治療の結果、子どもを授かるかどうかは確約されていません。治療自体が身体的・精神的な負担を伴うものであり、当事者でないと具体的な内容や負荷は知られにくい分野でもあります。
そこで実験では「あえて」ライフとキャリアについて話す機会を設け、仕組み化することで「言いづらい」を破壊しようと考えたのです。


届いた男性当事者からの声
見えない課題は他にもある

 
彼女たちの背中を押したのは、男性社員からの反応でした。
面識のない複数の社員から連絡があり、不妊治療の当事者であることを打ち明けられたそうです。彼らの経験談は、社内各部署に「男女関係ない課題」であることを説明する際にも助けになりました。
 
また、実験では、不妊治療中を想定し、情報・スケジュールの共有や複数担当制を実施。商談の代理依頼ができる仕組みを作り、組織戦で属人化を防ぐよう取り組みました。
その結果、全ての代理商談が行われ、サポート側の8割は負担を感じることがなかったとのこと。
これまで「手を出しても、治療があったら中途半端になってしまうかも…」と躊躇していた案件にチャレンジできた、という成果もありました。
 

 

もうひとつ、実験後の気づきとして大きかったのは、ある管理職から寄せられたコメントでした。
「制度が整っていることで、十分だと思いすぎていたかもしれない」
「これまでも職場には突発的な事象(本人の体調不良、子どもの急病など)が起こっていたはず。しかし、時短勤務や有給休暇など、制度が充実しているがゆえに、それで対応できると思っていた。しかし、実験をしてみたら、予測がつかないことは案外多い。これまでは皆、個人でどうにか頑張っていたのだろうが、本当は困っていたこともあったのだろうと感じた」
個人で解決するのではなく、チームで取り組む…具体策を実証する、一歩踏み込んだ取り組みだったからこそ、見えてきたものがあったようです。
 

(写真右)
中外製薬株式会社 
人事部 ダイバーシティ推進室長 佐藤華英子氏
(写真左) 
営業人財マネジメント部 川上英治氏

 
半年間エイジョに伴走してきた、中外製薬人事部ダイバーシティ推進室長の佐藤華英子さん、営業人材マネジメント部の川上英治さんは、「テーマを決める時は随分苦労していたように思いますが、それでも小さくまとめるのではなく、難題に勇気を持って立ち向かったことは素晴らしく、良い経験になったのではないかと思います。不妊治療はセンシティブでなかなか着手しにくい問題ですが、私たちもエイジョにきっかけをもらいました。人事部門としても、変革につなげていけたらと考えています。」と話してくれました。
 
 

 

エイカレで見つけた
「当たり前を疑う」ことの大切さ

 
エイカレ参加の経験は何らかの変化につながったのか。
最後に「当たり前を疑うことの大切さ」を挙げてくれたエイジョがいました。
 

 
「不妊に悩んでいる方は相当数いるはずなのに、職場では表立って語られることがない。
それを当たり前として見過ごすのではなく、一歩立ち止まって『なぜなのか?』を掘り下げてみると、本来のありたい姿、そのための対応策が見えてくると感じました」
「自分だけの悩みとして我慢するのではなく、そこを起点に会社の環境を変えていきたい」
 
「ぎぶみー5」チームの実証実験は、不妊治療という限られた対象者のみが利益を得られる仕組みではありません。介護や病気治療など、当人からは「言いづらい課題」、「可視化しにくい課題」「支援が必要であるが、なかなか見えにくい課題」の当事者を含め、職場の誰にとっても働きやすい職場づくりを目指す取組みでした。
そして、エイジョが声を挙げ、行動を起こしたことは、さらなる気づきと新たな変化につながっています。
この取組みが今後どのように波及していくのか、これからも大きな期待を寄せていきたいと思います。
 

※撮影時のみマスクを外しております

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