SUMMIT2021 篠田真貴子氏 特別講演レポート #02
講演テーマ
「聴く」は自律的な営業チームに効く」
#02「聴かれる」ことで問題解決能力がアップ!
異業種で営業変革と女性社員の育成を目指すプロジェクト・新世代エイジョカレッジ(エイカレ)は、2014年のスタートから現在までに、のべ137社、837人にご参加いただいております。約半年間のプログラムの中で、参加者は自らの課題解決と営業変革につながる『実証実験』を行い、『当たり前を崩す』提言にチャレンジ。これまで数々のイノベーションを創出してきました。
そして、毎年、総括の場となる「エイカレサミット」では、皆様の知見を広げていただけるような特別講演を実施しています。2022年2月22日に開催した「エイカレサミット2021」では、株式会社エールの取締役でいらっしゃる篠田真貴子氏にご講演いただきました。
世界的なベストセラーとなったケイト・マーフィーの著書『LISTEN―知性豊かで創造力がある人になれるー』の日本語監訳を担当された篠田氏。普段私たちが行っている「聞く」ではなく、「聴く」とは何が異なるのか、「聴く」ことがいかに自律的に働くことにつながっていくのか。篠田氏にお話いただいた内容を、全3回のレポートでお届けします。
本レポート内では、「聞く」と「聴く」の2つが出てきます
話し手の語る内容を「私の考えと合っている・違う」などと判断しながら「聞く」姿勢と、聞き手がいったん自分の判断を留保して、話し手の見ている景色や感じている感覚に意識を集中させながら「聴く」姿勢のふたつがあり、後者の耳の傾け方を意識して記述している箇所は「聴く」を、それ以外は「聞く」と記載しています。
「聴かれる」ことで経験学習効果も深まる
今度は、聴かれる方にも目を向けてみましょう。
前回解説したように相手をジャッジせず、相手の興味に気を向ける「聴く」を行うと、聴かれた方の人にも利点があります。
私が監修に携わった書籍『LISTEN』(ケイト・マーフィー著)の中に、子どもがパターン認識の問題を解く研究結果があります。それによると、大人側がしっかりと話を聞いてくれると、子どもは一人で解き方を思いついたときより、理解度が深まったり、失敗しても別の解決策を探すことができたりするそうです。
大人も同じです。相手がしっかりと話を聴いてくれることで、一人でただ考えるよりも代替案やしっかりした根拠を伴う、より詳細な解決法を説明することができるのです。
私たちも仕事の中でも相談を受けた場合、すぐに解決策を提案するのではなく、じっくりと相手の方の話を聞くと問題解決の糸口が見つかると科学的にも証明されています。こうして、人に聴いてもらうことで問題解決能力が向上していくのです。
さらに、自らの考えを言葉にすることで、経験学習を深めることもできます。
経験したことを観察し、応用できるように概念化し、そのうえで改めて実践をすることで経験学習が深まるという、デイビット・コルプの経験学習のモデルにも当てはまります。
さまざまな観点から観察し、応用できるように概念化するということは、人と対話し、聴いてもらうことそのものだからです。
何かを経験した後に一人で内省するよりも、人に話を聞いてもらうことで概念化の深さを増したり、さらに学びが深まります。しかも、定期的に話を聞いてもらうと、さらにその学びを深めることができ、経験学習効果がアップすると言われていますから、1on1などはまさにベストな手法なのです。
自己理解が高まると、目標と幸福度も高まる
よくこうした例で使われる、イソップ童話のレンガ積み職人の話があります。
教会を作るために働くレンガ職人。「家族のために教会を作るレンガを積んでいる」と考える職人よりも、「歴史に残る教会を作るためにレンガを積んでいる」と考える職人の方が、働くことに対して高次元で考えることができ、自分にとって働くことの意義が深まるのです。
これを会社での日々の仕事に当てはめてみましょう。日常業務を繰り返す意義を一人で考えても、その価値はなかなか見出しづらい。しかし、それを言葉にしていくことで、自分にとって仕事をする意義が理解できるようになり、その業務が事業戦略や企業理念を実現するために価値のあることだと気づくこともできます。そこに自分が共感する部分を見つけることもできるのです。
企業理念や事業戦略は、私たちの日常からは抽象的に見えてしまいますが、人に聴いてもらい、言葉にしていくことで、つながりが見えてくるのです。
エールで定期的に1on1などのサービスを3カ月受けた人とそうでない人の比較データがあります。特に特別な研修やスキルアップを図っていないのに、定期的に1on1を行った人たちは、言葉にし、考えることで、自己理解が深まり、内発的動機が高まりました。
特に変化が大きかった項目は、「仕事量」「使命や目標の明示」「成果に対する承認」「挑戦する風土」ということへの意欲です。
さらに、定期的に1on1を受けた人たちは、幸福度も高く上がったこともわかりました。
私たちの幸福感はとても主観的ですが、自己理解が高まると幸福度も高まるということがわかってきました。
「聴き合う」ことでチームのパフォーマンスが上がる
この「聴く」こと、「聴かれること」がチームでできるようになると、チーム全体のパフォーマンスが上がります。
Googleが2015年にパフォーマンスの高いチームの特徴を研究したところ、
・メンバー間の話す量が均等である
・非言語コミュニケーションに敏感である
という2つの特徴が明らかになりました。
そこから言えるのは、互いに「聴き合っている」ということです。
互いに「聴き合う」ことで、チームの中に心理的安全性がつくられています。
安心して話すことができる、聴いてもらえる、と思えるチームこそ、パフォーマンスがあがっていくのです。
聴くことを阻むもの
では、なぜ「聴く」ことがそう簡単にできないのでしょうか。
脳は、異なる意見を敵と認定するそうです。ネイチャーに掲載されたアメリカの調査によると、違う見解に人は触れると熊に襲われたような身体的危険を察知した時と同じような脳の活動をするそうなのです。頭が真っ白になってしまうとか、カッとなってしまうというのは、こういう状態なのでしょう。
この反射的な行動を司る扁桃体の活動と、話を注意深く聞く際に使われる脳の活動は、反比例することが研究によってわかっていると『LISTEN』でも書かれています。
ということは、もし次に自分が頭にくるようなことがあったら、意識して相手の話を「聴く」ということにスイッチを切り替えるようにすると落ち着いてくる可能性がありますね。
聴くことが簡単にできないのは、脳の自然な反応なのだと知っておくといいでしょう。
もう1つは、自然体では聴くことができないということです。
「頭の良い(IQが高い)人は話を聞くのが下手なことの方が多い」とか、「内向的な人は話を聞くのが上手と考えられがちだがそうではない」と『LISTEN』でも書かれていますが、「聴く」ことを私たちは教わってきていないという根本的な問題もあります。
私自身、子どもの時から(聴くことに関しては)3つの誤解があることに気がつきました。
1つ目は、「話を聞きなさい」と学校や親から言われてきたことで、聴くことは「従う」ことという刷り込みがあります。
部下の話を聞こうと思って、そこで言われた要望を叶えられなかったら上司としての信頼を失うのではないのではないかと思い、だったら聞くのをやめようと思ってしまったりするのです。
2つ目は、聞くのは話のイニシアチブを相手に渡す「受動的」行為であるという思い込みです。つまり、関係性のイニシアチブも話す方が持つのだと思っていたのです。
3つ目の誤解は、「知的怠慢」です。話さないことはダメなこと、聞くことは話し合いに参加していないと思っていました。
上手な聴き方ができればイニシアチブが取れる
しかし、これらの3つは大きな誤解でした。
まず、意見を聴いた後で「ふむふむ、そうですか。実は私はこんな考えなのです」と自分の意見を言うことはダメではないのです。聴くことと従うことは別だったのです。
さらに、聴く側もイニシアチブが取れるのです。相手の聴き方が冷たいと、話す気をなくすこともありますよね。逆に聴き方が上手いと話してしまうこともある。だからこそ、聴く側のあり方はその場を左右しますし、それが信頼性にも関わってくるということです。
そして、聴き方は知性の表れでもあるのです。相手の意見を聴く事で自分の中で新しい知識をストックし、刺激を受けているのです。
たとえば、営業パーソンとして高い営業成績を出そうとすると、つい自分が話してイニシアチブを取ろうとして「聴く」ことを見失うことに陥りがちなのです。これは、賢者の盲点です。
だからこそ、賢い営業パーソンは“意識をする”ことで、変わることができるのです。